あいつがナタリーに妙な感情を抱いているのは知っていた。
最初に気付いたのは一ヶ月ほど前。親子のスキンシップにしては少々不自然な部位を不自然な形で触っているのが気になった。視線を合わせて、ぞっとした。それは我が子を慈しんでいる眼ではなかった。
下着を漁っているのを目にしたのが決定的だった。わたしに気付かず娘のスキャンティを鼻に当てていたあいつのジーンズに目をやって、全身の血の気が引く思いがした。
何とかしなければならない。そう思った。
あいつはもちろん、わたしだって、正直なところまっとうな人生を歩んできたとはいえない。その履歴は泥に汚れ、一部分は真っ黒に塗りつぶされている。わたしたちは出逢ってから、互いの身体に被った汚物や多くの傷を舐めあって生きてきたのだ。その結果の一つとして、ナタリーが生まれた。
わたしたちがそんなだからこそ、ナタリーにはまっとうな人生を歩んでもらいたい。わたしはそう思っていた。なのにあの子は、スタート地点からすでに、汚泥に片足を突っ込んでいたのだ。
守ってやれるのはわたししかいなかった。だからわたしは、あいつの胸にアイスピックを突き立てたのだ。
ナタリーには、あいつは出ていったと言った。彼女は驚くことも質問することもしなかった。そして意外だったことに、安堵の表情も浮かべなかった。
翌日から、ナタリーのわたしに対する態度が変わった。できるだけわたしに近付かないように。わたしと言葉を交わさないように。はっきりと、よそよそしくなった。もしかしたらわたしがあいつを殺したことに、ナタリーは感付いているのかもしれない。だが、いつかはわかってくれるはず。そう思っていた。
誤りに気付いたのは三日後だった。ポークビーンズをつくるためにキッチンに立っていたら、背後から視線を感じた。振り向くと、五歩ほど離れた場所にナタリーが立って、わたしを睨み付けていた。瞳に燃えていたのは、憎悪だった。
すべてを理解した。全身が凍り付き、時間が止まったような感覚が皮膚にまとわりついた。
汚泥に捕らわれていたのは、わたしだったのだ。そしてわたしは、足どころか、首まで底なし沼に沈み込んでいたのだ。
あいつを殺したって、何も変わらなかったんじゃないか。もう手遅れだったんじゃないか。
神様。あんたはわたしを、どこまでも闇の中へ引きずり込んでいくのかい?
わたしの手首を、青白い指が掴んだ。
2007年06月26日
この記事へのコメント
えっと、あいつ、ってナタリーが赤ん坊の時に育てたという、我が同胞ですよね。
Posted by 天然記念狼 at 2007年07月03日 19:56
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