メルビンは、自分の影が薄いことには前々から気がついていた。
集団の中にいると、誰も自分に気付かない。誰も自分に話しかけようとしない。メルビンは、そんな子どもだった。
彼自身も大人しく、人見知りをする性格だから、普段はそれでも何の問題もなかった。ただ、フットボールの時間や、何かの行事があったときには、彼はいつも疎外感を味わうことになるのだった。
フレディやジェイソンのようなクラスの人気者に自分がなれるとは思っていないし、なろうとも思わない。が、せめて人並みの存在感というものを、メルビンは手に入れたかった。
今年のハロウィンがやってきたのは、メルビンが思いを固めたちょうどその頃だった。
メルビンはこのイベントが、大の苦手だった。
「トリック、オア、トリート!」
顔面を緑色に塗りたくったメルビンが大声で叫ぶ。だが、誰もメルビンには気付かない。友だちのマイケルや、留学生の貞子でさえクッキーの袋をもらっているというのに、メルビンのところには一袋さえ渡ってはこない。
「トリック、オア、トリート!」
声も涸れんとばかりに、メルビンは叫ぶ。自分はここにいる。そのことを知らせるために、メルビンは叫ぶ。
だが、存在を証明するためのキャンディーやチョコレートが、メルビンに向かって投げられることはなかった。
いつしか、彼の相貌からは涙がこぼれ落ちていた。頬を濡らしながら、彼は声を張り上げ続けていた。
日が落ち、街に夕闇が訪れようとしていた。
緑色の身体のまま、彼は一人中央通りを歩いていた。
クラスメイトたちは皆、満足げな顔で帰路に就いた。だが、メルビン一人が、手ぶらで街道をとぼとぼと進んでいた。そしてそんなメルビンに気付くものは、誰一人いなかった。
ボクはこの世界に必要ないんだ。メルビンは呟いた。こみ上げてくる衝動が抑えられず、肩が小刻みに震えた。
認めて欲しいだけなんだ。存在を、認めて欲しいだけなんだ。そう大声で叫びたかった。だが声も、気力も涸れ尽くしていた。
いったい僕が何をしたというんだ。メルビンの濡れた瞳に、暗い憎悪が灯った。
視線の先に一軒のケーキ店があった。
ここにならお菓子がたくさんある。僕の存在を認めてくれるものが、たくさんある。
手に持った玩具の鉞に光が宿った気がした。緑の皮膚は塗料ではなくなっていた。ケーキ店に向かって歩むメルビンの足が薄くなり、夕闇に溶け込んでいった。
