確か夜八時頃だったと思います。
私は夜道を歩いていました。真夏といえどもこれくらいの時間になると、辺りはすっかり暗くなり、帳が降りたような状態です。
私は駅から自宅までの帰路に就いていました。私の住んでいる辺りはそれほど田舎というわけでもないのですが、それでも夕暮れ時から日没までにはコウモリの姿が見られます。ぼんやりとした視野の中をコウモリが二度三度と飛び過ぎるのには驚かされることもありますが、基本的に害はありませんし、これもまあ情緒の一つだと思えば怒りも湧きません。
その日も道々二羽ほどのコウモリに遭遇しました。その時点ではいつものことだと思い、さほど気に留めていなかったのですが。
そのときはやけに、コウモリたちが私のちょうど目の前辺りを忙しく飛び回っていました。あまりにも続くので、これは何かおかしいと思ったのです。
暗闇に目を凝らしてよく見てみますと。最初は二羽ほどに見えていたはずのコウモリが、いつの間にか十羽以上の群れを成していました。コウモリたちはグルグルと回転し、固まり合っていました。そしてそれらが一つにくっついたかと思うと、私の目の前で何と、人型の影になったのです。
人影はスカートを履いているようでした。体つきからも、どうやら女性の人影のようだと区別できました。人影はそのままふらふらと、揺れながら私と同じ方向へと歩き始めました。その揺れ方がまた、これは何と説明すればいいのかわからないのですが、人が酔っぱらったときの千鳥足といったものとは違う感じの。そう。まるで人の形をした人でないもののような、不気味な歩き方でした。
私は人影の後ろをついて歩きました。別に後を尾けたり追ったりするつもりはまったくなかったのですが、進行方向が一緒なのだから仕方がありません。背筋に冷たいものを感じながらも、私は歩みを止めずについて行きました。
一分ほど歩いたでしょうか。人影が歩みを止めました。私もつい一緒になって立ち止まります。いったいどうするのだろうと観察していると、人影は突然、すぐ側の住宅へと入っていきました。その足取りは、先ほどまでの不気味な揺れは見られない、まるで人間のような足取りでした。
そして私は聞いたのです。ドアの開くような音と。
ただいま。
という甲高い人の声を。機械で合成したような、そんなふうでもありましたが、それは確かに日本語で、ただいま、と聞こえました。
私は少し早足で住宅の前を通り過ぎました。それからは何事もなく、私は無事に自宅に帰り着きました。
あれ以来、同様の光景を目にしたことはありません。が、あの道を通るときには、つい何かが出るかと身構えてしまうようになりました。そしてあの住宅を目にするたびに、いったいどんな家族が住んでいるのか、この家に入っていったあの影はいったい何だったのかと想像を逞しくしてしまうのです。
あの家の住人は、はたして普通の人間なのでしょうか。それともひょっとして。
