2005年07月17日

第五夜

 確か小学生の頃だったと思います。
 祖母の住んでいた田舎に帰省し、一泊しました。
 この時期、帰省したときには必ず親戚連中が集まっていて、昼は墓参り、夜は宴会となるのが常でした。
 その晩もいつもと同じく宴会が始まり、幼い私は一人、別の間で床に就いていました。
 広間の方から聞こえてくるどんちゃん騒ぎを子守歌に、私は眠りに就こうとしていました。そのときです。
 広間とは逆の方向。広間よりもっと近いところで、甲高い音がしました。
 それは馬の嘶きのように、私には聞こえました。
 甲高い音がもう一度。確かに馬の嘶きです。そしてその鳴き声は、どうやら家の外すぐそばから聞こえるようなのです。
 この辺りではまだ馬を飼っている家があるんだ。子供心に、そう考えました。そして、明日になったら馬を見に行こうと思いました。
 翌日。目を醒ました私は、早速祖母に馬はどこにいるのか、と聞いてみました。祖母は目を丸くして驚きました。
 確かに昔はこの辺りでも馬を飼っておったけどね。いまじゃあ馬を飼っている家なんてどこにもないよ。
 祖母はそう、私に教えてくれました。
 何でも、この村で最後に飼われていた馬は、隣家に住んでいた将校さんの愛馬だそうです。その馬は、戦争の末期、将校さんと共に爆撃で亡くなったそうです。
 こういう時期だからね。お帰りになったんじゃないかねえ。私の体験を聞いた祖母はそう、しみじみと漏らしました。
 あれ以来、祖母の家で馬の嘶きを聞いたことはありません。私は、あれは祖母の言うとおり、仏様が帰ってきたのだろう。そしてそのことを誰かに知って欲しかったのに違いない。そう思っています。
posted by 茶林小一 at 00:08| Comment(2) | TrackBack(0) | 夏の夜の怖い話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする