これは友人から聞いた話なんですけど。
S県とM県の境にトンネルがあるんですよ。長さ七〇〇メートルくらいの、地元では結構有名なトンネルでしてね。二十年ほど前に山の中腹辺りをくり抜いてつくられたんですが、ここを通ればS県から最短距離でM県の中央街に出られるってんで、結構重宝されてるんですよ。
ところがですね。日中はかなり通行量の多い場所なんですが、真夜中になると、ぱったりとだれも寄りつかなくなるんですよ。
それはなぜかと言いますと。このトンネル、地元では「人食いトンネル」って呼ばれているんですよ。日が出ているうちはいいんですけどね。深夜になると、トンネルに入り込んだ人間を食べてしまうっていう。
何でも、このトンネルは交通量に比例して事故も結構多くて、死亡者もたくさん出ているんですけど。県境ということもあって、事後処理が曖昧のまま終了してしまうことが多いんですよ。ほら、S県警とM県警って仲悪いですから。それで、その被害者たちの怨念が成仏できずにあのトンネルに留まり、自分たちの仲間を増やそうと通りがかる者たちを取り込んでいるのだ、と。そう噂されています。
ここからが本題なんですけど。そのトンネルに、私の友人が肝試しに行ったそうなんですよ。友人の彼女がそういうのが好きだそうでして、半分無理矢理のような感じで、深夜二時頃に愛車に乗って行ってきたそうです。
入る前から嫌な予感はしていたそうです。見た目は普通の、ちょっと薄暗いトンネルだそうなんですけどね。月明かりに照らされてぼうっと、青白く輝いて見えたそうなんです。いや、そういう先入観を持って見たせいかもしれませんが。
友人たちは勇気を出して入ってみたそうです。最初のうちは何の変哲もない、ただのトンネルだったそうです。
異変に気付いたのはしばらく経ってからのことでした。トンネルの長さは七〇〇メートル。一分も車を走らせれば抜けてしまうはずでした。なのに二分経っても、三分経っても出口が見えてこない。
おかしいと思った友人は車を停めて辺りを見渡したそうです。そうしたらいつの間にか周囲は真っ暗、入り口も出口も見当たらない闇の中にいたそうです。試しにUターンして入り口に戻ってみたのですが、やっぱり入り口が見えてこない。もちろん車一台通りかかりません。
このときにやっと、大変なことになってしまったと気付いたそうです。
彼女も妙なことに気がついたのか、騒ぎはじめました。友人は落ち着くよう諭したのですが、こうなるともう止まりません。パニック状態を引き起こし、泣くわ喚くわ。最終的にはどちらが悪いという言い争いになり、彼女は車を降りて一人、闇の中へ飛び出していってしまったそうです。
車の中に一人になった友人は、車の中で項垂れていました。いったいどうすればいいのか、わからなくなったそうです。彼女を追いかけることも考えたそうですが、この闇の中で一度車のそばを離れると二度と戻って来られない気がして、どうしても車から出ることができなかったそうです。
友人はしばらくそうしていました。が、そのうちに、周囲に異変が起こっていることに気付きました。友人は車のライトをつけっぱなしにしていたそうなのですが、どうもその、光源の届く範囲が狭くなっている。そして心なしか、気温が低下しているような気がしたのです。
友人は試しにライトをハイビームにしてみました。が、光はやはり先ほどまでと同じ距離までしか届かなかったのです。
背筋が凍り付いたような気がした。友人はそう言っていました。
そのとき。遠くからか細い女の悲鳴が聞こえたそうです。それが限界を告げる合図でした。友人は車のエンジンをかけ、走り出しました。前も後ろもわからず、ただただ、車を走らせ続けました。
気がついたとき、友人の車はM県側のトンネルの出入り口付近、道から外れた草むらに停まっていたそうです。時計を見ると、朝の七時だったということだそうですから、ちょうど五時間くらい経過した計算になるんでしょうか。
最初は夢を見たのか、と思ったそうです。そりゃそうですよね。私だってそういう状況になったら、ただ自分が眠って夢を見てしまっただけだと思います。
けれども夢だとしたらたった一つ、おかしなことがあったんですよ。
それは、助手席に載せていたはずの彼女が、いつの間にかいなくなっていたということなんです。
先に帰ったのかと思い電話をかけてみたそうですが、電話は繋がらず、また家にも帰っていないことがわかりました。現在もまだ彼女の捜索は続けられていますが、行方はまったく掴めないままだということです。


